本書『The Nature of Creativity』は、1988年にケンブリッジ大学出版から刊行された創造性研究の集大成であり、心理学的視点から創造性を多角的に分析する一冊である。ロバート・J・スタンバーグが編集を務め、創造性研究の第一人者たちによる論文を収録している。本書は、環境、個人、個人と環境の相互作用、そして統合的視点という4つのパートで構成されており、それぞれの視点から創造性を掘り下げている。
第I部 環境の役割
第1章「The Conditions of Creativity」では、ベス・A・ヘネシーとテレサ・M・アマビルが、創造的なパフォーマンスを引き出す環境条件について論じている。彼らは、創造性は個人の特性だけでなく、環境要因にも大きく依存していると主張する。特に、内発的動機づけ(intrinsic motivation)が創造的活動を促進する重要な要因であることを強調し、評価や報酬が創造性に及ぼす影響についても言及している。
創造性に影響を与える環境要因の詳細として、組織文化、教育環境、社会的圧力などが挙げられる。例えば、企業の研究開発部門では、自由な発想を促進するために柔軟な労働環境が重要視される一方で、過度な競争が逆に創造性を抑制する要因となる可能性がある。教育の場においても、従来の暗記中心の学習スタイルではなく、探究的な学習環境が創造性を育む上で効果的であるとされている。
また、アマビルの研究は、創造性を測定する方法として「コンセンサス評価法」(Consensual Assessment Technique)を提案しており、創造的な成果は専門家による評価を通じて決定されるべきだと主張している。この方法論は、芸術やデザインなどの分野でも応用されており、創造的な作品の質を客観的に評価する手法として現在も活用されている。
第II部 個人の役割
第II部では、創造性の個人的要因に焦点を当て、認知的アプローチや心理測定アプローチを用いて創造性の本質を探る。
第2章「The Nature of Creativity as Manifest in Its Testing」では、E.ポール・トランスが創造的思考をテストする方法について論じている。トランス・テスト(Torrance Tests of Creative Thinking, TTCT)は、流暢性(fluency)、柔軟性(flexibility)、独創性(originality)、精緻化(elaboration)といった要素を測定し、創造的能力を評価する試みとして広く知られている。このテストは、特に教育現場において創造性を促進するための指標として活用されており、創造的な才能を持つ子どもを特定するための有効な手段となっている。
また、第5章「A Three-Facet Model of Creativity」では、スタンバーグが「三側面モデル」(Three-Facet Model)を提示している。このモデルでは、創造性は以下の3つの要素の相互作用によって生み出されるとされる。
- 認知的側面(cognitive processes):問題解決や発想の柔軟性といった知的能力。
- 知的スタイル(intellectual styles):新しいアイデアを受け入れる態度や思考の傾向。
- 人格的特性(personality attributes):好奇心やリスクを取る意欲など、個人の特性。
特に、知的スタイルの違いが創造的思考にどのように影響を与えるかについては、多くの実験的研究がなされており、個人の思考パターンが創造性の発現に大きな役割を果たすことが示されている。
第III部 個人と環境の相互作用
第III部では、個人と環境の相互作用が創造性に及ぼす影響を考察する。ここでは、創造的な人生や創造的な文化がいかに形成されるかが論じられる。
第10章「Inching Our Way Up Mount Olympus」では、ハワード・E・グルーバーとサラ・N・デイビスが、創造的思考の進化的システムアプローチを提唱し、創造性が突発的なひらめきではなく、生涯を通じたプロセスであることを示す。
第13章「Society, Culture, and Person: A Systems View of Creativity」では、ミハイ・チクセントミハイが、創造的な個人が文化と社会から情報を受け取り、それを変換することで新しい価値を生み出し、社会がその価値を認めることで創造性が成立するとする「システムモデル」を提示している。この章では、創造的活動が社会の構造や文化の変遷と密接に結びついていることが示される。
第IV部 統合と結論
創造性研究の今後の発展についても言及され、創造性がどのように促進されるか、どのように測定・評価されるべきかについての議論が行われている。
総評
『The Nature of Creativity』は、創造性を多角的に捉えた包括的な研究書であり、心理学的視点から創造性を深く探究したい研究者や学生にとって貴重な資料である。本書の構成は理論的枠組みの整理に優れ、創造性研究の主要なトピックを網羅している。また、各章における実証研究の紹介も豊富であり、創造性を測定・評価する方法論に関心のある読者にとっても有益な一冊である。
※ この記事はchatGPTを利用して書かれています。不正確な情報が含まれる可能性にご注意ください。