『Handbook of Creativity』は、創造性研究の分野における包括的かつ決定版的なレビューを提供する一冊である。本書は、創造性の概念から始まり、研究の歴史、測定方法、発達過程、個人と環境の関係、そして特殊なトピックまで、広範なテーマを扱う全22章で構成されている。心理学を中心としながらも、芸術や科学、ビジネスに至るまで、多様な領域における創造性の考察が含まれており、創造的思考に関心のある読者にとって貴重な情報源となる。

1. 創造性の概念と研究の歴史

本書の冒頭では、創造性の定義とその研究の歴史が概観される。スタンバーグとルバートは、創造性を「新規で適応的な成果を生み出す能力」と定義し、これまでの研究がどのようなパラダイムの下で発展してきたかを整理する。特に、心理測定的アプローチ、認知的アプローチ、社会・人格的アプローチなどが詳細に議論され、それぞれの方法論の長所と限界が示される。

また、創造性研究の歴史的展開についても述べられており、ギルフォードの研究が1950年代に創造性研究の方向性を変えたことや、その後のトランスフォーマティブな研究の流れが紹介される。これにより、創造性がどのように学問的に発展し、現在の理論的枠組みが形成されたのかが明確に理解できる。

加えて、本書では創造性の多様な定義についても触れられている。創造性の研究者によって異なる視点があり、一部は認知科学的アプローチを取り、一部は社会文化的影響を重視する。これにより、創造性の概念は単なる個人の能力ではなく、環境や経験とも密接に関連していることが強調されている。

さらに、本章では創造性の理論的枠組みについて深く掘り下げている。創造性は、単に新しいアイデアを生み出す能力としてのみ捉えられるのではなく、社会的・歴史的な文脈の中で評価される概念である。例えば、システム理論の観点から創造性を見ると、創造的なアイデアは単に新規であるだけでなく、受容されることで初めて価値を持つと考えられる。この観点は、創造性を文化的に捉える研究とも結びついている。

2. 創造性の測定方法

創造性の測定に関する章では、心理測定的手法、ケーススタディ、実験的研究、歴史的研究など、さまざまなアプローチが紹介されている。特に、トランスフォーマティブ・テストや発散的思考テストなどの測定手法がどのように開発され、活用されてきたのかが詳細に説明される。

創造性の測定は長年にわたり多くの議論を呼んできた。従来の心理測定的アプローチは、創造性を知能と同様に測定できるものとして考え、標準化されたテストを開発してきた。しかし、創造性は知能とは異なり、文脈や状況によって大きく変動する要素を含むため、単純なスコアとして測ることは難しい。

例えば、ギルフォードの発散的思考テストは、創造性を数値化する試みとして有名である。このテストでは、被験者が特定の問題に対してできるだけ多くの解答を出すことが求められる。解答の量、独創性、柔軟性などが評価基準となる。しかし、これだけでは創造的な思考の全体像を捉えることはできないという批判もある。

また、近年では神経科学を活用した創造性の測定が進められており、脳波やfMRIを用いた研究が増えている。これらの研究は、創造的なプロセスが脳内でどのように処理されるのかを明らかにしようとするものである。

3. 創造性の発達と環境要因

創造性の発達に関する章では、個人の成長とともに創造性がどのように変化するのか、そして環境がどのように創造性を支えるのかについて議論される。

本書では、幼少期の遊びと創造性の関係について詳しく述べられている。子どもは遊びを通じて新しいアイデアを試し、失敗を重ねながら学ぶ。この過程が創造的な思考の基盤を形成する。心理学者ヴィゴツキーは、遊びが子どもの認知発達に重要な役割を果たすことを指摘しており、本書の議論もその流れを踏襲している。

また、成人期における創造性の維持についても言及されている。創造的な活動は、専門知識の蓄積とともに深化するが、過度な固定観念や経験則が創造性を阻害することもある。したがって、柔軟な思考を保ち、新しい刺激を受け入れることが重要である。

4. 創造性に関する特殊なトピック

本書の後半では、創造性に関連するさまざまな応用領域について議論されている。文化と創造性の関係、組織における創造性の促進、教育現場での創造的思考の育成など、多岐にわたるテーマが扱われている。

特に興味深いのは、組織における創造性の促進についての議論である。企業や研究機関では、イノベーションが重要視されるが、創造的なアイデアを生み出し、それを実現するには組織文化が大きく影響する。本書では、心理的安全性や異分野のコラボレーションが創造性を高める要因として挙げられている。